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神戸地方裁判所 平成3年(行ウ)42号 判決

原告

株式会社ナザック

右代表者代表取締役

高野大成

原告

有限会社アンドール

右代表者代表取締役

高野大成

被告

芦屋市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

天王寺谷又之助

右訴訟代理人弁護士

村上喜夫

右指定代理人

松本明

外一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

別紙物件目録(一)ないし(四)の各土地(以下、「本件(一)の土地」等といい、四筆の土地を併せて「本件土地」という。)に対する平成三年度固定資産課税台帳登録価格につき、被告が平成三年九月二六日付けでした原告らの審査申立てを棄却する旨の決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らが兵庫県芦屋市長の定めた本件土地に対する平成三年度固定資産課税台帳登録価格が高すぎるから不服であるとして被告に対し審査を申し立てたところ、被告が右申立てを棄却する旨の決定をしたので、原告がその決定の取消しを求めた事案である。

一争いのない事実

1  原告株式会社ナザック(以下「原告ナザック」という。)は、本件(一)及び(二)の土地を所有し、原告ナザック及び原告有限会社アンドール(以下「原告アンドール」という。)は、本件(三)及び(四)の土地を共有している。

2  芦屋市長は、平成三年度の本件(一)ないし(四)の土地の評価額を、それぞれ四三六万五一四〇円、二三五二万九〇五〇円、一八七五万七二二〇円、三五万三七一〇円と決定し、固定資産課税台帳に登録した。

3  原告らは、平成三年五月一〇日、被告に対し、本件土地に対する平成三年度固定資産課税台帳登録価格について、本件土地が隣接のがけに接していて崩壊の発生した危険地帯のため住宅建築が禁止されていて通常の宅地の用途に供することはできないから、がけ地としての補正割合を適用して減額するよう主張して、審査申立て(以下「本件申立て」という。)をした。

4  被告は、平成三年九月二六日、本件申立てを棄却する旨の決定をした。

二争点

本件の争点は、芦屋市長が定めた本件土地の価格が適正なものかどうか、である。

第三争点に対する判断

一固定資産の価格の評価方法について

1  固定資産税の課税標準となる固定資産の価格は、適正な時価をいうものとされている(地方税法三四一条五号)から、宅地の登録価格についての不服の審査は、宅地の登録価格が適正な時価を超えていないかどうかについてされるべきものである。

また、市町村長が固定資産の価格を決定するには、自治大臣が地方税法三八八条一項の規定を受けて固定資産の評価の基準並びに評価の方法及び手続について定めた固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示一五八号により告示、昭和五九年一二月自治省告示二一四号により改正されたもの。以下「評価基準」という。)に従ってしなければならない(同法四〇三条一項)と定められており、特定の宅地の評価が適正な時価を超えていないかどうかは、当該宅地の評価が評価基準に従って適正に行われたかどうかによって審査、判断されるべきものと解される。

2  評価基準によれば、宅地の評価については、市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区等に区分し、当該各地区についてその状況が相当に相違する地区域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し、その標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路の路線価を付設し、その路線価を基礎として「画地計算法」を適用して各筆の宅地の評点数を付設する(第二章第三節二)ものとされている。

3  また、土地の価格を構成する要素が複雑多岐であるため全国一律の評価基準で「適正な時価」を求めることができない場合も多いので、評価基準は、その別表第4の宅地の比準表や画地計算法の付表等を、各市町村の実情に適合するように補正することができる(同章同節二の(一)の4、(二)の5)としている。芦屋市は、これを受けて適正な評価が期待できるように、許容されている範囲において同市が実施する際の評価基準の補正等を定めた芦屋市土地取扱要領(〈書証番号略〉。以下「要領」という。)を作成している。したがって、芦屋市における宅地の価格の評価が適正な時価を超えていないかどうかは、評価基準だけでなく、要領に従って適正に評価されたかどうかについても審査されることになる。

二本件土地の価格について

1  本件土地の評点数について検討すると、本件土地及びその周辺地域の状況等に関して、次の各事実が認められる。

(一) 本件(二)及び(三)の土地は、いずれも、奥行きが間口の二倍程度もある縦長の土地である。また、本件(一)及び(四)の土地は、いずれも右(二)及び(三)の土地の周辺を囲むように接している細長い土地で、それ自体単独では何ら使い道がないような土地である。本件土地四筆はそれぞれ高低差もなく相互に隣接していて、これを一体としてみると、西側道路と約二五メートルの間口で面し、約二四メートルの奥行きがある比較的整った台形状の形状をしている。本件土地は、昭和五八年七月に原告ナザックが購入して以降、何らの手も加えられず、放置されたままになっている。(〈書証番号略〉、証人細見正和の証言、原告ら代表者尋問の結果)

(二) 本件土地は、第一種住宅専用地区内にある宅地であるが、過去に山崩れが生じたことがあるがけと幅員約四メートル(両側の草木を含む。)の道路を挾んで近接している。

兵庫県においては、兵庫県建築基準条例(昭和四六年条例三二号制定、昭和五三年条例一九号により改正された後のもの。以下「建築条例」という。)によって、がけ地に建築物を建築する場合には、がけの態様等又は建築物の用途、構造等により安全上支障がない場合を除いて、がけから建築物までの間にがけの高さの1.5倍以上の水平距離がなければならないとされているが、本件土地から近接するがけまでの間に右必要な距離はなく、がけに対して擁壁を設置するなどの安全措置は採られておらず、宅地造成等規制法三条一項による規制区域に指定されていた。

本件土地と同様にがけから所定の距離が足りない土地上に建っている建物のうちには、誰も人が住まず荒廃したままになっているものもある。(〈書証番号略〉、原告ら代表者尋問の結果)

(三) 本件土地が属する状況類似地区の標準宅地は山芦屋町三二番一の土地(以下、「本件標準宅地」という。)であるが、その一平方メートル当たりの価格は近隣の取引事例や土地の価格等と比較検討のうえ、一一万〇四〇〇円と決められている。(〈書証番号略〉、証人細見正和の証言)

(四) 本件土地と本件標準宅地の間は、約一〇〇メートル離れている。本件標準宅地に接する主な街路は、舗装がされており、幅員は三メートルであるが、本件土地に接する街路は、未舗装で、かつ、整備もされていないため、約四メートルの幅員があるものの、道路の両側に草木が生えていて、通常通行できる部分の幅員は約一メートルである。右街路はいずれも歩道と車道の区分はない。(〈書証番号略〉、証人細見正和の証言)

(五) 本件土地からJR芦屋駅及び阪急電鉄芦屋川駅までの距離は、それぞれ一六〇〇メートル、八五〇メートルで、本件標準宅地から右各駅までの距離はそれぞれ一五〇〇メートル、七五〇メートルである。(〈書証番号略〉、証人細見正和の証言)

(六) 要領第七章路線価付表等によれば、高級、中級及び普通住宅地区の一般道路の街路幅員評点数は、三メートルで二万七八五〇点、一メートルで一万五一九〇点、車道が舗装されている場合の街路構造の評点数は三〇〇〇点とされ、高級、中級、普通住宅地区における私鉄駅接近距離についての評点数は、JRの駅から一五〇〇メートル離れると二万〇〇〇〇点、一六〇〇メートル離れると一万八六四〇点で、阪急電鉄の駅から七五〇メートル離れると二八〇〇点、七五〇メートル離れると一六八〇点とされている。なお、市長が評価基準に基づき決定した評点一点当たりの価額は一円である。

また、奥行きが23.63メートル以上25.45メートル未満の場合の奥行価格逓減補正率は0.99、宅地全部について宅地造成等規制法の規制区域に指定されている場合の制限等に関する補正率は0.90である。(〈書証番号略〉)

(七) 芦屋市長は、平成三年度の本件土地の路線価を九万一六〇〇点と定め、これに対して、宅地造成等規制法に関する補正0.90、奥行価格逓減率0.99をそれぞれ乗じて、前記本件土地の価格を決定した。(〈書証番号略〉)

2  以上の事実を総合すると、本件土地は、個々の土地については必ずしも使い勝手のいい形状ではなく、単独で使い道のないものさえあるが、それぞれ高低差もなく相互に接していて、全体としてみると、間口と奥行きが同程度の比較的整形の土地であり、また、原告ナザックが同時に購入したまま放置しているものであり、一体をなしているというべきであるから、これら四筆を一画地としてその価格を算出するのが相当である(評価基準別表第3、2但し書)。そして、近隣の取引事例等を比較検討して決められた本件標準宅地に接する主たる街路の路線価の一一万〇四〇〇点に対し、街路幅員、街路構造並びにJR及び阪急電鉄の駅からの接近距離についての本件標準宅地と本件土地の各評点を差引きすると、一一万〇四〇〇点―一万二六六〇点(街路幅員評点数二万七八五〇―一万五一九〇点)―三〇〇〇点(舗装されている場合の街路構造評点数)―一三六〇点(JRの駅からの接近距離評点数二〇〇〇〇点―一万八六四〇点)―一一二〇点(阪急の駅からの接近距離評点数二八〇〇点―一六八〇点)で、九万二二六〇点になるのであるから、芦屋市長が付設した本件土地の路線価九万一六〇〇点は、この本件土地の路線価についての評点数を超えるものではなく、相当な路線価ということができる。

そして、この路線価に対し、本件土地の宅地造成等規制法に関する補正率の0.90、奥行価格逓減率の0.99を、それぞれ乗じる(補正毎に一〇〇点未満切り捨て)と、本件土地一平方メートル当たりの評点数は、八万一五〇〇点になる。これに対して、原告らは、右宅地造成等規制法に関する補正率の0.90というのは高すぎると主張するが、この補正率は、本件においてことさら高い率を適用したのではなく、芦屋市における土地の価格の評価に際して宅地造成等規制法の制限がある土地について一律に適用される基準であり、その内容についても、本件土地については建築が制限されているものの、全面的に建築が禁止されるわけではなく、がけ又は予定建物について、どのくらいの費用がかかるかはともかくとして、安全措置を講じさえすれば建物の建築は可能なのであるから、この補正率が高すぎるということはできない。

以上のとおり、原告が主張する本件土地の特殊事情は、すべて右の評点の算定において考慮されているということができる。そこで、この本件土地の評点数に本件各土地の地積を乗ずると、本件(一)の土地(53.56平方メートル)の評点数は四三六万五一四〇点(以下、一〇点未満切り捨て)、同(二)の土地(288.70平方メートル)の評点数は二三五二万九〇五〇点、同(三)の土地(230.15平方メートル)の評点数は一八七五万七二二〇点、同(四)の土地(4.34平方メートル)の評点数は三五万三七一〇点となり、芦屋市長が固定資産評価基準に基づき決定した評点一点当たりの価額が一円であるから、本件(一)ないし(四)の土地の評価額は、それぞれ、四三六万五一四〇円、二三五二万九〇五〇円、一八七五万七二二〇円、三五万三七一〇円になる。したがって、芦屋市長の定めた本件土地の登録価格は、評価基準及び要領に従って適正に行われたものということができ、適正な時価を超えていないということができる。

三隣地と同一の路線価を用いることについて

1  原告は、本件土地の時価は南側の隣接宅地の時価と比べて七割六分の差があるのに同じ路線価で評価されているから課税の公平に反すると主張する。

2  評価基準第二章第三節(一)2によると、市街地宅地評価法における標準宅地は、宅地の利用状況を基準として区分した各地区を、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域(以下「状況類似地域」という。)ごとに区分し、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを選定するものとされている。状況類似地域の認定に当たっては、同一の用途地区について市町村の評価事務量と評価の適正化の確保との関係を考慮して、市町村長が任意に判断すべきものと解される。そして、この点に関する「固定資産評価基準の取扱いについて(依命通達)」第二章第三節一六によれば、標準宅地の選定について、「一般的には、宅地の価格事情からみて相互の価格差が二割程度の地域ごとに選定することを目途とすることが適当である。」とされているのであるから、一般的には、原告が主張するように相互の地域の価格差が二割以上離れていれば別個の標準宅地が選定されることが望ましいということはできる。

3  しかし、前述のとおり、状況類似地域の選定は、市町村の評価事務量と評価の適正化の確保との関係を考慮して、市町村長が任意に判断すべきものであるから、別個の地域を選定することが困難又は不適切であり、また、その選定のために市町村の事務量が不相当に増加するような場合には、地域相互の価格差が二割を超えるような場合であっても、一つの標準宅地を選定すれば足りると解するのが相当である。

このように解しても、評価基準や要領に定められた画地計算法の付表や各種の補正を適切に運用するならば、課税の均衡を期することは十分に可能であり何ら問題はない。

4 本件土地は、がけ地からの距離の関係で建物の建築が制約されているから、その隣地が制約を受けていないとすれば、ある程度の価格差があることが窺われる。しかし、その価格差が二割を超えていることを適確に認めるに足りる証拠はないし、仮に本件土地及びその隣地の価格差が二割を超えていたとしても、右両地は、その街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度等においてほとんど同一の状況にあるということができ、また、本件土地と同様に建築を制限されている土地があるのは比較的狭い地域でかつ宅地も少ないのである。それにもかかわらず、がけから一定の距離を離れているか否かで本件土地と隣地との間に線引きをして別個の状況類似地域を設定するというのは決して適切な措置ということはできず、また、市町村の事務量を徒に増加させるだけであるから、本件土地とその隣地のために別個の標準宅地を選定する必要はないということができる。

したがって、芦屋市長が、右両地について一つの標準宅地しか選定しなかったことについて、違法な点はない。

四特別土地保有税の扱いとの均衡について

1  原告は、本件土地は建物を建築することができず価値が低いため特別土地保有税は免除されているくらいであるから、市長が定めた価格は高すぎると主張し、他方、被告は、本件土地につき特別土地保有税が課税されていないのは、建築物の建築が不可能であるという理由によって免除されているのではなく、本件各土地の原告ら各所有面積が課税の基準面積に達しないからだと主張する。

2  特別土地保有税は、土地の取得又はその保有に対して、所有者に課される市町村税である(地方税法五八五条一項)が、右規定に基づいて特別土地保有税が課されない場合であっても、三大都市圏の特定の都市の市街化区域内(本件土地はこれに当たる。)において昭和五七年四月一日から昭和六三年三月三一日に取得された土地のうち一団の土地の面積が五〇〇平方メートル以上(特別区及び指定都市の区以外の市の区域について)のものに対しては、その土地を取得された日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年の四月一日から翌年の三月三一日までを初年度とする一〇年度分に限って、特別土地保有税が課せられるものとされている(地方税法附則(昭和六三年法律六号による改正前のもの。)三一条の五一項)。そして、地方税法施行令五四条の三六第一項によれば、共有土地二筆の課税の基準面積の算定については、持分の割合によるとされている。

そこで、本件土地の所有関係等について検討すると、次の各事実が認められる。

(一) 本件土地は、いずれも、昭和五八年七月二七日、原告ナザックが現況を見た上、約一億五〇〇〇万円で買い入れた(所有権移転登記は同月三〇日付け)ものである。(〈書証番号略〉、原告ら代表者尋問の結果)

(二) 原告ナザックは、芦屋市から昭和六〇年一〇月二日付けのミニ保有税についての案内をそのころ受け取った。右案内には、地方税法六〇三条の二第一項を敷衍して、「ミニ保有税の課せられることになる年度において、事務所、店舗等の恒久的な建物、構築物または特定施設の用に供する土地として使用し、芦屋市の土地利用に関する計画に照らしその地域における計画的な土地利用に適合することについて、市長が特別土地保有税審議会の議を経て認定したもの」については特別土地保有税の納税義務を免除すると記載してあった。(〈書証番号略〉)

(三) 原告ナザックは、昭和六〇年一二月二六日、原告アンドールに対し、真正な登記名義の回復を登記原因として、本件(三)及び(四)の土地の持分各三分の一ずつについて所有権一部移転登記手続をした。(〈書証番号略〉)

(四) 昭和六一年一月一日における法人登記簿の代表者についての記載は、原告アンドールの代表者が代表取締役高野大成、原告ナザックの代表者が代表取締役前田祥子となっていた。(〈書証番号略〉)

(五) 原告ナザックは、芦屋市長に対し、代表取締役前田祥子の名前で、昭和六一年五月三一日付けの特別土地保有税の申告書及びその免除認定申請書を提出し、その際、免除認定申請書の欄外に、備考として「兵庫県条例第一九号がけ地近接により建物の建築が許可されない。宅造許可条件として、資材置場、駐車場として利用の誓約書を提出して」と記載した。(〈書証番号略〉)

(六) 平成元年八月一八日、原告ナザックは、本件(一)及び(二)の土地を、原告らは、本件(三)及び(四)の土地の共有持分全部について、株式会社三祐商事との間で売買予約(代金約二億円)を締結し、それに基づき所有権移転請求権の仮登記手続をした。(〈書証番号略〉)

以上の事実を総合すると、基準日である昭和六一年一月一日においては、本件土地四筆に対する原告ナザックの保有面積の合計は498.58平方メートル(53.56平方メートル+288.70平方メートル+230.15平方メートル×3分の2+4.34平方メートル×3分の2)、同じく原告アンドールの保有面積の合計は78.15平方メートル(230.15平方メートル×3分の1+4.34平方メートル×3分の1)になり、いずれも課税の基準面積五〇〇平方メートルに達しないということができる。

3  これに対し、原告らは、本件土地は原告らが共有するものであるところ、この両社の株主及び代表取締役が同一人の高野大成であるから所有者は一人とみなされ、実質課税の原則により所有面積合算で課税基準が判定され、本件土地は五〇〇平方メートルを超え課税の対象となるから、本件土地について特別土地保有税が課せられていないのは、基準面積に達しないためではなく、建物の建築が不可能なためであると主張する。

しかし、基準日における法人登記簿の代表者の記載は、原告アンドールが代表取締役高野大成、原告ナザックが代表取締役前田祥子となっており、原告ナザックの特別土地保有税の申告書及びその免除認定申請書も株式会社ナザック代表取締役前田祥子の名前で提出されていて、少なくとも外形上は原告の代表者は異なった者になっている。この点について、原告らは、原告ナザックの実際の株主及び代表者はアンドールと同じ高野大成であって前田祥子が代表取締役であるというのは名義の上だけであると主張し、原告ら代表者もそれに沿う旨の供述をしている。しかし、実際に誰が原告らの代表者であったかはともかく、右証拠によっても芦屋市長が原告らの代表者が同一人であると認識していたと認めることはできず、かえって、原告ナザックが芦屋市からのミニ保有税についての案内を受け取った後特別土地保有税の基準日直前に原告アンドールに対して本件(三)及び(四)の土地の持分各三分の一ずつについて所有権一部移転登記手続をして原告ナザックの本件土地に対する保有分の合計を五〇〇平方メートルを僅かに下回る面積まで減少させていることからすると、芦屋市長は、原告らを全く別個の法人として扱っていたと推認することができ、他に、芦屋市長が原告らの代表者が同一人物であることを知っていたと認定又は推認するに足りる証拠はない。したがって、芦屋市長が本件土地についてその面積が特別土地保有税の基準面積を超え右税の課税の対象になることを知っていたということはできないから、芦屋市長が本件土地を課税対象として認識していることを当然の前提とする原告の右主張は採用することができない。

4  また、特別土地保有税は、土地の投機的取得を抑制して地価の安定を図るとともに、保有土地の供給の促進に資することを目的とするものであり、当該土地を有効に利用するなど右目的に反しない一定の場合には非課税とされたり免除の制度(地方税法六〇三条の二第一項もこれに当たる。)が設けられており、芦屋市のミニ保有税の案内においても、右条項を敷衍して、「事務所、店舗等の恒久的な建物、構築物または特定施設の用に供する土地として使用し、芦屋市の土地利用に関する計画に照らしその地域における計画的な土地利用に適合することについて、市長が特別土地保有税審議会の議を経て認定したもの」については特別土地保有税の納税義務を免除すると記載していて、その土地を有効に利用する一定の場合にそれを免除することを明らかにしている。そして、原告ナザックも、これに従って、免除認定申請書に「宅造許可条件として、資材置場、駐車場として利用の誓約書を提出して」と記載しているのであるから、この免除申請は、建物の建築が許可されないことではなく、資材置場、駐車場として利用することをその理由とするものである。したがって、仮に本件土地についての特別土地保有税の納税義務が免除されていたとしても、それは、建物の建築が許可されないためではなく、資材置場、駐車場として有効に利用すると認められたためであるから、この点においても、原告の右主張は理由がない。

五隣地の価格との均衡について

1  原告は、不動産鑑定士の鑑定評価は適正な時価に当たるところ、不動産鑑定士高田省三は本件土地の更地価格の単価について隣地のそれの一〇〇分の二四と判定しているから、芦屋市長のした評価は適正な時価を超えていると主張する。

2  ところで、市町村長が固定資産の価格を評価する際に従わなければないとされている(地方税法四〇三条一項)評価基準によれば、市町村長は、評価の均衡を確保するため当該市町村の各地域の標準宅地の中から一つを基準宅地として選定すべきものとされ、標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、この基準宅地との評価の均衡及び標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮すべきものとされているのである。それゆえ、法は、このように統一的な一律の評価基準によって評価を行い、かつ、所要の調整を行うことによって各市町村全体の評価の均衡を確保することとし、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡も、法及び評価基準(要領を含む。)の適正な運用によって解消することとしているものと解される。

したがって、特定の画地の評価が公平の原則に反するものであるかどうかは、当該宅地の評価が評価基準に従って適正に行われているかどうか、当該宅地の評価に当たり比準した標準宅地と基準宅地との間で評価に不均衡がないかどうかを審査し、その限度で判断されれば足りるものというべきである。

3 本件においては、前述のとおり、芦屋市長は、本件土地の価格の評価に際して、評価基準及びそれに基づく要領に従って適正に行ったのであり、また、本件標準宅地の価格についても、右土地の状況ばかりでなく、近隣地域の売買実例等と比較、検討したうえで決定したのであるから、この価格の評価が公平の原則に反することはない。

4 また、不動産鑑定士高田省三は本件土地の価格を一億三五五〇万円と鑑定しており(〈書証番号略〉)、また、原告が本件土地を取得した価額が約一億五〇〇〇万円、原告が株式会社三祐商事と売買予約した際の代金額が二億円であることを考慮すれば、芦屋市長が定めた四七〇〇万五一二〇円という本件土地の合計価額が適正な時価を超えているということは到底できない。

第四結論

以上のとおりであって、芦屋市長が定めた本件土地の価格は適正な時価を超えておらず、その減額を求める原告らの本件申立てはいずれも理由がないから、これを棄却した被告の決定に違法な点はない。よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官北川和郎)

別紙物件目録

(一) 所在  芦屋市山芦屋町

地番  一番四六

地目  宅地

地積  53.56平方メートル

(二) 所在  芦屋市山芦屋町

地番  一番三三

地目  宅地

地積  288.70平方メートル

(三) 所在  芦屋市山芦屋町

地番  一番六四

地目  宅地

地積  230.15平方メートル

(四) 所在  芦屋市山芦屋町

地番  一番六八

地目  宅地

地積  4.34平方メートル

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